名古屋地方裁判所 昭和49年(む)1331号 決定 1974年11月18日
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
一、本件準抗告の申立の趣旨および理由
本件準抗告の申立の趣旨および理由は本決定末尾に添付した弁護人村瀬鎮雄作成の「準抗告の申立」と題する書面に記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
一件記録によると、被告人に関する本件公訴事実につき被告人がこれをなしたと疑うに足る相当の証拠が存在することがわかる。
そこでつぎに、被告人に罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるか否かについて判断する。一件記録を検討すると、被告人は本件公訴事実を一応認めており、本件の証拠物件である拳銃は捜査機関によってすでに別件で押収済みであること、被告人が右拳銃を譲渡した相手方ならびにその経緯については、関係人らの、おおむね真相に合致すると思料される供述がなされており、しかも右関係人らはいずれも現在身柄を拘束されていること、などの事実が認められる。しかし他方、被告人が本件拳銃をいかなる人物からいかにして入手したかについては、被告人の供述は極めてあいまいであり、真実味に乏しく、したがって公訴提起後の現在においてもなお捜査機関において右の点につき鋭意捜査中であることもまた認められる。右に認定したような事実関係によれば、本件事案の全貌はその重要な一部において、いまだ解明されていない状態にあるというべきであり、その他証拠により認められる被告人の素行、経歴、境遇など諸般の事情を総合考慮すると、第一回公判期日さえ経ていない現段階において被告人の保釈を許容するときは、本件拳銃の入手先や入手経路といった本件事案の枢要部をなし被告人の刑責に重大な影響を及ぼすと思料される事実に関し、被告人が関係者とあれこれ通謀し、あるいは関係人に働きかけてその罪証を隠滅するような行為に出る危険性は極めて高いものと断ぜざるを得ない。
してみると、本件において被告人につき刑訴法八九条四号に該当する事由があるとして弁護人の保釈請求を却下した原裁判は正当としてこれを是認すべきである。
よって本件準抗告の申立はその理由がないことに帰着するので、刑訴法四三二条、四二六条一項にのっとりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 杉田寛 裁判官 三浦宏一 熊田俊博)
<以下省略>